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介護の基本は「食事、排泄、移動、整容・入浴」


家族が高齢者を介護するとき、「本人に代わってやってあげる」ことが多くなりやすいものです。
家族としては、身体の弱くなった高齢者をいたわってあげたい気持ちもあるでしょうし、何事にもスローテンポの高齢者が自分でするのを待つより、家族がやってしまったほうが早い、という事情もあるかもしれません。高齢者自身が「できないからやってほしい」と頼んでくることもあります。
しかし、介護する人が何もかもやってしまうと、高齢者が自分で頭を働かせたり、手足を使ったりする機会が少なくなってしまいます。その結果、心身の機能が急速に衰え、寝たきりや認知症の症状が進んでしまうこともあります。何もかもやってあげることは、実は本人のためにはならないのです。

介護では、本人ができることはなるべく本人にしてもらう姿勢が大切です。たとえ着替え一つに10 分、15 分と時間がかかっても、本人ができるのであれば、それを見守りたいものです。そしてできないことを見極めて、そこをサポートしてあげてください。
長い目で見れば、加齢に伴ってできないことが増えていきますが、できるところを伸ばすつもりで、根気よく付き合ってあげてください。「自分でできる」ことは、高齢者の意欲や活力を高めることにもつながります。
それでは以下に、食事、排泄、移動、整容・入浴という、日々の基本的な介護について、それぞれのポイントを紹介します。
食事
食事では「自分で食べる」を応援する
食べることは人間の基本的欲求であり、また在宅療養中の日常生活の大きな楽しみでもあります。起きられる人はベッドを離れて食卓で食事をとりましょう。病院では食事をとれなかった人が、自宅ではまた食べられるようになり私たちも驚くケースがあります。
食事の介助では、本人が「自分で食べる」ことをサポートしましょう。要介護度が高くなった人でも、上体を起こして箸を持たせれば、自分で食べ物を口に運べるケースは多いものです。
また手の麻痺があるときは補助具の付いたスプーンを使う、食べこぼしが多いときは食事用のエプロンをつけるなど、環境の工夫でも対応ができます。
高齢者の食事では、食べるのに時間がかかるという悩みも多いようですが、1 回の食事に1 時間かかっても、高齢者が食べたい意欲があって食べられるなら、それで問題ありません。本人のペースで食事ができるのが、病院とは違う在宅の良さでもあります。
逆に食べたくないために時間がかかるときは、無理に食べなくていいでしょう。食事量が極端に減った、水分が十分に取れないといったときは、主治医に相談してください。
食事でむせる、飲み込みが悪いといったときは医師に相談
食事でむせることが増えた、口に入れた物を飲み込めずにいつまでももぐもぐしている、というときは注意が必要です。
「すぐにむせる、食物をうまく飲み込めない」状態を、嚥下障害といいますが、これには大きく3 つの原因があります。
一つは器質的障害です。高齢者では、腫瘍があることで口から食道、胃にかけての食物の通り道が狭くなっている、といった場合がこれにあたります。
二つ目が、機能的原因です。口や喉、消化管には形態的な異常はないけれども、飲み込みに関わる筋肉や神経が弱り、うまく飲み込めない状態です。脳卒中の後遺症や加齢による嚥下障害は機能的原因によるもので、高齢者に多く見られます。
そして三つ目が心理的要因です。うつ病などの精神疾患を持っている高齢者、認知症の高齢者にも、嚥下障害が見られるケースが多いことが知られています。
嚥下障害があると、食べる楽しみが奪われてしまうほか、必要な栄養が不足し、全身の状態が悪化する恐れもあります。気になる様子が見られるときは在宅医に原因を調べてもらい、必要な治療を受けてください。喉周辺の筋力低下の場合、医師の指示により看護師らが嚥下(飲み込み)のリハビリを行うこともあります。
誤嚥性肺炎を防ぐためには、口腔ケアも重要
食事でむせやすくなったときに、注意しなければならないものには誤嚥性肺炎もあります。
誤嚥性肺炎とは、口の中の細菌が誤って気管や肺に入ってしまい、そこで炎症を起こす病気です。重症化すると命を落とすこともあるので軽視はできません。誤嚥性肺炎のリスクを減らすため、食事では以下のような点にも注意してください。
①食事前に口腔状態をチェックする
食前に口の中が汚れているときや乾燥しているときは、うがいなどの口腔ケアを行ってから食事をすると、口の中の細菌を減らせます。
②食べるときの姿勢にも注意
首が後ろに反っている姿勢ではうまく飲み込めません。座るときは椅子に深く腰掛け、やや前傾姿勢になるようにします。ベッドでは、ベッドの角度を30~60 度にし、枕で頭を支えます(122 ページ参照)。
③食べ始めと食べ終わりは、飲み込みやすいものを
誤嚥がいちばん起こりやすいのは、準備運動ができていない「食べ始め」と疲れが出てくる「食べ終わり」です。こういったタイミングでは、とろみをつけたスープなど、飲み込みやすい料理を取らせましょう。
④食べ物の形状を医師や歯科医師、栄養士に相談
飲み込みが悪くなってきたときは、液体に適度なとろみをつける、固形のおかずはミンチ状やピューレ状にする、といった形状の工夫も重要になります。自宅での調理が難しいときは、市販の介護食製品を使うといった方法もあるので、医師や歯科医師、栄養士に相談しましょう。

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薬が飲めているか、家族も確認
食事の前後に薬を飲む人も多いと思いますが、家族は「処方されたとおりに薬を飲めたか」も確認してください。
高齢になると薬を自力で管理することが難しくなる人も少なくないので、できるだけ家族やヘルパーがそばにいて、確認できるタイミングで薬を飲むようにすると安心です。家族が日中不在であったり、飲み込みが困難であるといった場合は、処方を1 日3 回ではなく、朝・夕の2 回にしてもらうのも一案です。
薬を飲み忘れたときにどうするかという対処法は、薬の種類によっても異なるので、在宅医や薬剤師に確認しましょう。また薬の量が多すぎる、錠剤が飲み込みにくくなったというときは、飲みやすい量や形状に変更することもできるので、やはり薬剤師に相談してください。
排泄
トイレで排泄できる環境づくりをする
次に、排泄についてです。
排泄はとてもデリケートな問題です。介助をする家族も当初は抵抗を感じるかもしれませんが、介助を受ける高齢者も、人に「下の世話」をしてもらうのは嫌なものです。高齢者の気持ちにも配慮しながら、できない部分を補ってあげてください。
トイレで排泄できる人の場合、本人が自分の力で排泄行為を行えるように環境を整えます。
立ち座りが不安定になってきたときはトイレ内に手すりを設置し、便器の前に立つ、下着を下ろす、便座に腰掛ける、排泄後にお尻を拭く、立ち上がる、下着を上げる、といった一連の動作を片手で手すりにつかまりながら一つずつ行えるようにします。
手をうまく使えない人は、トイレットペーパーを切り取りにくいことがあるので、介助者が切って渡すか、チリ紙タイプのペーパーを用意します。衣類・下着は上げ下げしやすいものを選びましょう。
また高齢者は尿意・便意を感じにくくなっています。時間を見てトイレに誘うようにし、失敗が増えてきたときは本人を責めるのでなく医療・介護スタッフに相談してください。
おむつのケアは、看護師に指導を受ける
トイレでの排泄が難しくなってきたときは、おむつでの排泄に移行します。
ただし、おむつをつけることにショックを受けて、急に生きる気力を失ってしまったり、認知症が進んでしまったりする高齢者もいます。移行は医師や看護師と相談しながら、慎重に進めましょう。
おむつで大事なことは、身体に合ったサイズのものを選ぶこと、そして正しいつけ方でつけることです。それができていないと漏れてしまって本人も不快ですし、着替えや寝具の交換といった家族のケアも重労働になり、腰痛や過労につながりかねません。
初めておむつをするときは、正しいサイズの選び方や正しいつけ方、介助者に負担の少ないおむつ交換の方法などについて、看護師に指導してもらうことをおすすめします。
時間的・体力的に家族ではおむつ交換ができないときは、訪問介護や訪問看護で対応することもあります。
尿道カテーテルにしたとき
近年は、脳梗塞の後遺症や前立腺肥大などにより自力で排泄できない場合、排尿については尿道カテーテルを採用するケースも多くなっています。
尿道カテーテル(膀ぼう胱こう留置カテーテル)とは、尿道から膀胱にカテーテルという細い管を入れ、その管を通じて尿を体外へ排出する方法です。管を常時入れっぱなしにするので、慣れないうちは少し違和感があることもありますが、おむつが濡れて不快になることもなくなり、おむつ交換の回数も少なくて済みます。
カテーテルの挿入は在宅医が行います。管から流れ出た尿は蓄尿バッグというビニール製の容器にたまるので、家族はバッグにたまった尿を1 日1 回程度、トイレに捨てるだけでOK です。
カテーテルを入れた尿道の周りから尿が漏れている、バッグに尿がたまってこない、カテーテルを抜いてしまったというときは、すぐに医師に連絡しましょう。

移動
手すりや歩行器で歩行を補助。履物が介護靴がベスト
高齢者の足腰が弱ってくると、立ち上がり時や身体の向きを変えたときにふらつく、小さな段差や時には何もないところでつまずく、といった気になる様子が多くなります。
家族としては、転倒や骨折が怖いという気持ちもあると思いますが、転倒を恐れてベッドから動かさずにいると、ますます筋力が低下し、寝たきりへと一気に進んでしまいます。
安全には十分に配慮しながら、できるだけ「立つ、歩く」といった移動の機能を維持できるよう支えてあげてください。
転倒予防の対策としては、廊下などに手すりを設置することが挙げられます。手すりが付けられない場所では、つえや歩行器を使う方法もあります。家族が付き添うときは手すりやつえ、歩行器の支えのない側に立ち、身体が傾かないように見守ります。
またスリッパやサンダルのようなかかとのない履物は、脱げたり滑ったりしやすくなります。戸外はもちろん、室内でも移動のときには足に合った屋内用介護靴を履くのがおすすめです。
車椅子での移乗は、必ずブレーキをかけてから
自力での歩行が困難になると、移動手段は車椅子になります。
標準的な車椅子には、本人が操作して移動する「自走用」と、介助者が押して移動する「介助用」があります。ほかにもリクライニング機能やヘッドサポートなどが付いた姿勢変換機能付きのタイプ、電動タイプなど、さまざまな種類があります。使用の目的や本人の状態、体格に合ったものを選んでください。
ベッドなどから車椅子への移乗の手順については、看護師から指導を受けましょう。移乗のときの注意としては、必ず車椅子にブレーキがかかっていることを確認してから乗せるようにしてください。車椅子がしっかり固定されていないと、転倒やけがの原因になります。座るときは姿勢が崩れないように深く腰掛けてもらい、足元のフットプレートに両足を乗せた状態で移動します。
また車椅子の座面のシートがたわんでくると、骨盤の下側(坐骨)に体重が集中し、お尻が痛くなります。車椅子に座っている時間が長い人は、体重を分散するクッションなどを活用しましょう。
整容・入浴
歯磨きや口腔ケア、爪切りなどをするのが整容
整容とは、洗面や歯磨き、髭剃り、整髪など、身だしなみを整えることです。
在宅療養でどこにも出かけないとなると、身だしなみにかまわなくなることもありますが、それは心身の健康にとってよくありません。洗面や髭剃りなどをすれば、それによって手や身体を動かすことになるうえ、気分がさっぱりしてリフレッシュ効果も得られます。起きて過ごせる人は朝、起きたら着替えをして身だしなみを整えましょう。ベッドで過ごす人もタオルで顔を拭き、髪を整えるだけでも違います。
整容のなかでも、特に口腔ケアは大切です。誤嚥性肺炎(121 ページ参照)を防ぐためにも、食後のうがいや就寝前の歯磨きは忘れずに行ってください。うがい受けといった口腔ケア用品を使えば、ベッドの上でもうがいや歯磨きができます。
手がうまく使えない、足に手が届かないといったときは、家族が手足の爪切りをしてあげてください。寝たきりの人では、足の爪が分厚く肥厚して切りにくくなることがあります。家族で切るのが難しいときは、訪問看護師に依頼してください。
入浴では、温度差と転倒に注意
入浴は、身体や皮膚を清潔に保つためでもありますが、温かいお湯に浸かると全身の血行が促進され、リラックス効果も期待できます。しかし一方で、温度差によって身体に負担がかかる、転倒のリスクが高いといった側面もあります。家族が介助をするときは事前に体温や体調を確認し、安全に十分配慮して入浴を行ってください。
冬場の入浴では、前もって脱衣所や浴室を温めておき、温かい部屋から移動したときの急激な温度変化を避けましょう。
浴室には手すりを付け、浴槽に入る・出る動作は手すりにつかまりながらゆっくり行ってください。浴槽の湯量は浸かったときにみぞおちくらいの高さが目安で、湯温は39~40 度くらいのぬるめが適しています。身体を洗うときは、本人ができるところは洗ってもらい、手が届かないところを家族が手伝います。安定して座れる浴室用の介護椅子があると便利です。
家族での入浴介助に不安があるときは、無理をせず医療・介護のスタッフに相談してください。訪問看護師・介護士による入浴介助、訪問入浴、施設での入浴といった介護保険サービスもあります。
また入浴ができないときは、身体を拭いて清潔を保ちます(清拭)。熱めのお湯に浸けてよく絞ったホットタオルで、全身を拭きます。
家族で行うのが難しいときは、看護師や介護士が行います。

引用元

『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』 著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎