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Home >  在宅医療の教科書 >  家族の介護は、「できる範囲」で考える

家族の介護は、「できる範囲」で考える


高齢者や要介護になった人が在宅療養をするときには、通常、その家族にも一定の役割や責任が生まれてきます。
入院しているときは食事や服薬、トイレの介助など、日常生活看護をすべて看護師が行いますから、極端な話をすれば、家族は何もしなくても療養に支障はありません。しかし在宅の場合、家族もチームの一員です。そのため〝家族の負担〟がネックになって、在宅医療に踏み切れないケースも少なくない、というのは前にも述べたとおりです。
けれども、皆さんに知っておいてほしいのは、家族による在宅介護は「できる範囲」で考えればいい、ということです。
また家族が担う役割も、何か決まったスタイルがあるわけではなく、家族の状況によってそれぞれ違っていていいのです。
家族の形も、在宅医療の形もさまざま
そもそも、現代日本では、体力的にも時間的にもゆとりがあって、同居している高齢者の介護を完璧に行える、という家庭のほうが少数派でしょう。
数として多いのは、高齢者が高齢になった配偶者を介護する「老々介護」であり、日中は仕事で家にいない子どもが高齢の親を介護する「働きながらの介護」です。なかには離れた地域に住んでいる子どもが、週末などに親の家に通って介護をする「遠距離介護」もあります。

当クリニックの患者さんでも、最近はそういった例が珍しくありません。先日も、80 代で一人暮らしの女性が、当クリニックのある静岡県内で在宅医療を始めましたが、この人の介護者は、神奈川県川崎市に住んでいる娘さんです。
この家庭の場合、娘さんにも仕事や家庭があるので、1 カ月のうち第1 週と第3 週は介護保険サービスのショートステイを利用(緊急時には当院が往診)し、母親に施設で過ごしてもらっています。残る第2 週、第4 週は、娘さんが静岡へ通い、母親の自宅で介護をしています。
片道2 時間の距離を通うのは、娘さんにとっても決して容易ではないはずですが、家で過ごしたいという母親の希望をできるだけかなえたいということで、こうした計画で在宅療養を行っています。
現代では、家族の形はさまざまであり、それに合わせて在宅療養・在宅介護にもいろいろなやり方がある、ということです。
家族だけで何もかもやろうと考えなくていい
また、在宅介護においては「家族だけで何もかもやらなければ」と、無理をする必要はありません。訪問看護や訪問介護、デイサービスなどの介護サービスを上手に活用してください。
高齢者と同居している家族の場合、家族の役割としていちばん大事なことは、日々の様子を見守ることです。
咳が増えて痰がからんでいるとか、少し熱っぽく、食欲が落ちているなど、高齢者の体調の小さな変化に気づくことができるのは、毎日接しているご家族です。昼間は家族が不在という家庭でも、朝晩の様子を見てもらえればOK です。
そして何か気になることがあれば、主治医や介護スタッフに伝えてください。家族に代わって日中に訪問看護師が訪れ、体調をチェックすることもできます。
また高齢者と別に住んでいる人も含めて、家族の大事な役割には、在宅療養の方針について一緒に考えることも挙げられます。高齢者は、時間の経過とともに状態が変わっていきます。高齢者の判断力が低下したり、意思表示が難しくなったりしたときは、本人に代わって家族が、治療をするかしないかといった判断を迫られることが多くあります。そういうときには家族の意向をとりまとめて、主治医に伝えてください。
在宅での医療行為は、病院と同じでなくても構わない
在宅療養では、家族が褥瘡の治療や痰吸引といった医療行為を行う例もあります。その場合も、病院と同じレベルの看護や医療行為を家でもしなければ、と気負う必要はありません。
よく退院時カンファレンスで病院の医師が、「褥瘡の治療は1 日2 回行う」など、病院で行っている医療をそのまま家でも行うように指示することがあります。しかし、それが難しい場合は、家族にとって負担の少ない別の方法がないか、在宅医と相談していくことが大切です。
家族は看護・介護だけをしていればいいわけではなく、家族にもそれぞれの生活があります。病院の看護師と同じことを家でしていたら、家族はそれだけで疲れ果ててしまう場合もあります。

家族が頑張り過ぎて疲弊し、体調を崩してしまったというのでは、何のための在宅療養か、わからなくなってしまいます。
在宅の場合、家族が家で無理なく行えるような医療行為・ケアを、主治医や看護師が指導します。
これは別に、在宅ならば状態が悪くなっても仕方がないと諦めるわけではありません。ケアを省力化しつつ、体調を維持する在宅医療ならではの工夫があるということです。
わからないことや不安なことは在宅医や看護師に相談
在宅療養を初めて経験する家族にとっては、最初はわからないこと、不安なことばかりかもしれません。「介護なんてしたことがないし、どうしていいかわからない」と戸惑う人も多いはずです。
食事の介助、トイレの介助といった日常生活の介護も不安というときは、当初、看護師がそばについて方法を教えることもできます。
介護のアドバイスをすることや家族のサポートも訪問看護師の職務ですから、遠慮なく相談してください。
また、在宅療養を始めてから「飲み込みが悪くなり、食事に時間がかかる」といった悩みが出てくることがあります。そういうときは在宅医が原因を探り治療やリハビリを行う、介護食への切り替えを指示するといった対応をします。やはり主治医に相談しましょう。
在宅医や看護師に相談しながら、不安や悩みをひとつひとつクリアにしていけば、ご家族も自信を持って在宅療養を進めていくことができます。

引用元

『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』 著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎