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Home >  在宅医療の教科書 >  病気だけを診ても、その人のことは分からない。

病気だけを診ても、その人のことは分からない。



在宅医療だから見えてくる「暮らしの中の医療」

血圧はいくつか。
検査の数値はどうか。
薬はきちんと処方されているか。

もちろん、どれも医療では大切なことです。
けれど、自宅で患者さんと向き合っていると、それだけでは分からないことがたくさんあります。

その薬を、本当に毎日飲めているだろうか。
食事はとれているだろうか。
家の中を安全に歩けているだろうか。

そして何より、その人は今、どんな毎日を送っているのだろうか。

在宅医療で私たちが診ているのは、病気だけではありません。

病気とともに暮らしている、「その人の生活」そのものです。

カルテには書かれていないこと

病院では、診察室で患者さんと向き合います。
一方、訪問診療では医師や看護師が患者さんのご自宅へ伺います。

実際に生活している場所に入ると、診察室では見えなかったものが見えてきます。

普段どこで過ごしているのか。
誰と暮らしているのか。
どんなものを食べているのか。
家族はどのように介護しているのか。

何気ない会話や家の中の様子から、その人の生活が少しずつ見えてきます。

例えば、医学的には適切な薬が処方されていたとしても、その人の生活の中で無理なく続けられるとは限りません。

「正しい処方か」という視点だけではなく、「この人が、この家で、この生活を続けていくために適切か」というところまで考える。

それが、在宅医療の大切な役割の一つです。

専門性が違うから、見えるものも違う

在宅医療では、一人の患者さんが複数の病気を抱えていることも珍しくありません。
だからこそ、幅広く患者さんを診る力と同時に、それぞれの医師が培ってきた専門性も大きな力になります。

循環器を診てきた医師だから気づける変化があり、呼吸器、神経内科、リウマチ、泌尿器科、神経科など、それぞれの経験が活きる場面があります。

さまざまな専門性を持った医師がいることで、一人では気づけなかったことに気づける。
そして、その知識を「病気を治すため」だけではなく、「その人の暮らしを支えるため」に使っていく。

私たちが目指しているのは、そんな在宅医療です。

医師だけでは、暮らしは支えられない

そして、患者さんの生活を支えているのは医師だけではありません。

訪問看護師やケアマネジャー、介護職、リハビリテーション専門職など、地域では多くの人が一人の患者さんに関わっています。
医師が訪問していない時間にも、患者さんの生活は続いています。

だからこそ、それぞれが気づいた小さな変化を共有し、一緒に考えていくことが大切です。

病気を診る人。
生活を支える人。
体の変化に気づく人。
家族の悩みに耳を傾ける人。

役割は違っても、見ている先は同じです。

「この人が、この地域でどう暮らしていくか」

その一つの目的に向かって、医療と介護がつながっていきます。

「なんとなく気になる」を大切に

今回の対談では、在宅医療に関わるうえで大切なこととして、とても印象的な話がありました。

それは、患者さんのことを「気になる」と思えること。

「昨日よりも元気がない気がする」
「ご家族も少し疲れているように見える」
「このままの生活で大丈夫だろうか」
検査結果には表れない、小さな違和感です。

けれど、その「気になる」が、患者さんの変化に気づくきっかけになることがあります。

医療がどれだけ進歩しても、人が人を見て、気にかけることの大切さは変わりません。

むしろ患者さんの暮らしに近い在宅医療だからこそ、そんな小さな気づきを大事にしたいと私たちは考えています。

医療を、暮らしの中へ

病院には、医療のための環境が整っています。でも、自宅は医療をするためにつくられた場所ではありません。
食事をして、テレビを見て、家族と話をして、眠る場所。そこへ私たち医療者がお邪魔します。

だから在宅医療では、医療の正しさだけを患者さんの生活に当てはめるのではなく、その人が大切にしてきた暮らしの中に、医療をどうなじませていくかを考えます。

病気を見る。

身体を見る。

そして、その人を見る。

自宅だからこそ見えるものを大切にしながら、これからも私たちは、一人ひとりの暮らしに寄り添う医療を届けていきます。

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